鮎。日本を代表する川魚であり、その香気から「香魚」とも呼ばれ、江戸時代には多摩川の鮎が「御用鮎」として幕府に上納されていました。長良川郡上の鵜飼い漁も有名です。釣りの世界では縄張りをもつ習性を利用して「オトリ鮎」で野鮎を掛ける友釣り、絢爛豪華な毛バリ釣り、また最近は若い人の間でルアーの鮎釣りが流行の兆しを見せています。
本書はそんな鮎の「味」に焦点をあてた一冊。繊細優美な天然鮎の味わいにほれ込んだ20名の“香魚の礼賛者”たち=文人、美食家、農学者、料理人らが鮎の味と料理について思いのたけを綴り、語った文章を、著者が著作などから一つ一つ根気よく探し当て、”味わい深い”鮎の味覚の物語を紡ぎ出してゆきます。
押し寿司、鮎飯、瀬越、姿ずし、焼きジュー、活き鮎の洗い、落ち鮎の腹の子(卵)、鮎田楽、釣瓶鮓、塩焼……いずれも際立つその描写は、目を閉じればまぶたに料理が浮かび、言葉から立ち上がる味覚が舌を、香りが鼻腔をくすぐってやみません。
今まで、ありそうでなかった文章による「鮎の味」、現代の食通を唸らせる内容です。
目次
谷崎潤一郎
押し寿司 8
池波正太郎
鮎飯 22
村井弦斎
「フエタス」「サラダ油焼」「三杯醤油」 37
立原正秋
瀬越 50
木下謙次郎
姿ずし&鮎めし 64
稲葉 修
焼きジュー 78
北大路魯山人
活アユの洗い 91
佐藤垢石
頭と骨 104
阿川弘之
塩焼 118
獅子文六
塩焼 130
福田平八郎
ワタの石焼 144
瀧井孝作
干鮎の煮浸し 157
白洲正子
塩焼 169
小島政二郎
鮎寿司 182
丸谷才一
アユ田楽 196
神吉拓郎
釣瓶鮓 210
國分綾子
子持ちあゆの塩焼 224
高橋 治
うるか 237
辻 嘉一
塩焼 251
小泉武夫
ウルカ・熟鮓 265
番外編1
「星岡茶寮」北大路魯山人の挑戦
一路160里! 京都・和知川~東京「釣りアユ輸送」大作戦 278
番外編2
魯山人が愛した! 幻の「和知アユ」を体験
和知駅前の鮎茶屋「角屋」天然鮎のフルコース料理 296